[肝臓の主な病気]
病名一覧
ウイルス性肝炎
ウイルス性肝炎とは、ウイルスの感染によって肝臓の細胞が壊され、炎症が起こる疾患です。一般的によく知られているのはB型とC型の2種類ですが、この他にA型、D型、E型の肝炎ウイルスが存在しています。
A型肝炎とは
A型肝炎ウイルス(HAV)は、ウィルスに汚染された貝類や食品、水などを口にすることにより感染します。A型肝炎は一過性の急性肝炎のため、ほとんどの人が自然治癒します。そのため、肝硬変や肝がんに進行することはありません。しかし稀に劇症化や慢性化することがあります。感染すると発熱や全身のだるさ、食欲不振などの風邪に似た症状や黄疸が現れるため、症状に応じた治療が行われます。
B型肝炎とは
B型肝炎ウイルス(HBV)は、血液や体液を介して感染します。
主な感染経路は、以下の原因に分けられます。
●水平感染
- ・輸血や注射針の使い回し(覚せい剤や麻薬の乱用における汚染針の使いまわしなど)
- ・入れ墨やピアスの穴あけなど適切な消毒などを行わずに使用した場合
- ・性交渉
- ・感染者からの輸血
●垂直感染
- ・B型肝炎に感染している母親から生まれた新生児への母子感染
(現在は母子感染に対する予防策が確立されているため、新たな感染はほとんどありません)
1985年からB型肝炎母子感染防止事業が開始しワクチン接種が実施されてからは、母子からの垂直感染は減少しました。また2016年より新規の感染を減少させるべく、国民全員がワクチンを受ける「ユニバーサルワクチネーション」が始まりました。
症状
治療法
B型肝炎ウイルスの主な治療法は、肝炎ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス治療のインターフェロン(IFN)や核酸アナログ製剤、もしくは肝臓の炎症を抑えるための肝庇護(かんひご)療法になります。現在の治療法では、ウイルスを完全に排除するのは難しいと言われているため、疾患が肝硬変や肝がんなどに進展しないようにすることが治療の目標となります。
●インターフェロン療法
私たちがウイルスに感染すると、そのウイルスに対抗できるように体内で物質が作られます。その一つがインターフェロンという物質で、ウイルスを抑制や排除する働きがあります。インターフェロン治療では、人工的に作られたインターフェロンを投与し治療を行っていきます。詳しくは、医師または医療関係者にご相談ください。
●核酸アナログ治療
拡散アナログ製剤は、ウイルス増殖を直接抑える効果のある薬剤です。治療効果が高く副作用が少ない治療ですが、長期投与による薬剤耐性ウイルスの出現や、投与中止後にウイルスが増加するなどの問題点もあります。詳しくは、医師または医療関係者にご相談ください。
●肝庇護(かんひご)療法
肝庇護(かんひご)療法とは、抗ウイルス療法が効かない、または施行できない場合に行います。
ASTやALTの数値を下げて肝臓の炎症を抑えることで、肝細胞の再生を促し肝硬変や肝がんへの進行を抑える、もしくは遅らせます。インターフェロン(IFN)治療のようなウイルスを排除することで肝炎を治す根治的な治療方法ではないため、ウイルスを排除する効果はありません。肝庇護療法には、主に強力ネオミノファーゲンシーやグリチルリチン製剤、ウルソデオキシコール酸が一般的に使われます。詳しくは、医師または医療関係者にご相談ください。
C型肝炎とは
C型肝炎ウイルス(HCV)は、血液を介して感染します。ゆっくりと病態が進行し、5年から10年をかけて次の段階へ進展するとされています。発ガン率(肝がんを発症する確率)も段階が上がるごとに高くなります。
C型肝炎ウイルスの主な感染経路は、以下の原因に分けられます。
●水平感染
- ・輸血や注射針の使い回し(覚せい剤や麻薬の乱用における汚染針の使いまわしなど)
- ・入れ墨やピアスの穴あけなど適切な消毒などを行わずに使用した場合
- ・感染者からの輸血
- ・性交渉
(C型肝炎はB型肝炎よりも感染力が弱いため、性交渉で感染することはほとんどありません)
●垂直感染
- ・C型肝炎に感染している母親から生まれた新生児への母子感染
(C型肝炎はB型肝炎よりも感染力が弱いため、母子感染は多くはありません)
日本におけるC型肝炎の感染者の多くは、ウイルス発見前の輸血や注射針の使い回しによるものでしたが、1988年にウイルスが発見されてからは、厳密な検査を行った上で輸血用血液や血液製剤を使用しているため医療現場での感染報告はなくなりました。
症状
C型肝炎に感染すると、急性肝炎を発症する場合と慢性肝炎に進行する場合があります。
●C型急性肝炎
数か月の潜伏期間の後、全身のだるさや食欲不振、吐き気、さらには皮膚や眼球の白い部分が黄色くなる黄疸などの症状が現れることがあります。
●C型慢性肝炎
ウイルスがからだに残り、持続的に肝臓が炎症することで細胞が壊れ、肝臓の働きが悪くなっていきます。初期段階には、はっきりとした症状が出ず自覚症状もないため、気づかないうちに線維化が進展し、肝硬変や肝がんに進行していることがあります。
治療法
C型肝炎ウイルスの感染を予防する有効なワクチンはありませんが、ウイルスを99%駆除する効果がある経口薬(DAA)が開発され、臨床現場で一般的に用いられています。
D型肝炎とは
D型肝炎ウイルス(HDV)は、B型肝炎ウイルス(HBV)に感染している人でしか複製できないウイルスです。B型肝炎ウイルスと同時に、または重複したときに発症します。また、このウイルスは、感染者の血液もしくはその他の体液との接触を介して伝播されるため、垂直感染(母子感染)は稀です。
D型肝炎は急性および慢性肝炎を引き起こすことがあります。B型肝炎とD型肝炎の重複感染は、B型肝炎のみの感染者よりも肝硬変の進展がおよそ10年早くなるといわれています。
D型肝炎ウイルスに対する有効な抗ウイルス療法は今のところありませんが、B型肝炎の予防接種により防ぐことができます。
E型肝炎とは
E型肝炎ウイルス(HEV)は、ブタ、イノシシ、シカなどの動物が保有するE型肝炎ウイルスや、レバ刺しや加熱不十分な肉、または糞便に汚染された飲食物を摂取することで感染します。感染し急性肝炎になると、A型肝炎(HAV)と似た症状(発熱、食欲低下、腹痛、黄疸)が発症します。慢性化することはほとんどなく自然治癒しますが、劇症化するとA型肝炎よりも重症度や致死率が高いといわれています。
E型肝炎は発展途上国に多いと考えられてきましたが、最近では日本でも感染が確認されています。ワクチンもないため、生肉を食べないことが唯一の予防策となります。