アルコールを飲む方へ/飲酒習慣スクリーニングテスト「AUDIT」とフィブロスキャン検査で肝臓チェックを

アルコール

春は歓送迎会やお花見、年度末の打ち上げなど、何かとお酒を飲む機会が多い季節です。酒の十害や飲酒の十徳など、日本人は昔からお酒との上手な付き合い方を考えてきましたが、過度な飲酒を続けているとアルコール性肝障害といった肝臓病など、様々な疾患のリスクが高まります。そこで今回は、春の肝活としてアルコールと肝臓病、さらにアルコールをたしなむ方に是非、試していただきたい「飲酒習慣のチェック」や「肝臓の検査方法」についてご紹介したいと思います。

日本人は昔からお酒との付き合い方を考えていた「酒の十害と飲酒の十徳」

お酒は“百薬の長”といわれ、上戸の人を“我が意を得たり”とばかりに勢いづかせたり、またある時は“万病の元”の汚名を着せられながら、人頻の歴史と共に今日まで脈々と継承されてきた貴重な日本の文化遺産といえるのではないでしょうか。

お酒の功罪は、いつの時代も人間にとって永久のテーマです。お酒の効用は第一に嗜好品として、第二に冠婚葬祭における不可欠な要素として、第三にストレスを解放し気分転換させるものとして、第四に様々な場面での人間関係を円滑にするものなどが考えらます。室町時代には“酒の十害”として「①独居の友、②万人和合す、③位なくして貴人に交わる、④推参に便あり、⑤旅行に慈悲あり、⑥延命の効あり、⑦百薬の長、⑧愁いを払う、⑨労を労う、⑩ 寒気に衣となる」と唱えられていました。江戸時代には”飲酒の十徳”として「①礼を正し、②労をいとい、③憂をわすれ、④鬱をひらき、⑤気をめぐらし、⑥病をさけ、⑦毒を解し、⑧人と親しみ、⑨縁を結い、⑩人寿を延ぶ」と表現するなど、日本人は昔からお酒との付き合い方を考えていたようです。

一方で、不適切な飲酒が様々な健康被害をもたらすことは周知の事実です。アルコールにより引き起こされる様々な疾病の現状と問題、アルコールとのつきあい方について、これからお話していきます。

アルコールを飲み過ぎるとどうなるの?!

アルコール性肝障害(ALD:alcoholic liver disease)とは、飲酒に起因する臓器障害の代表的な疾病です。大量飲酒を繰り返した場合、アルコール性肝炎を発症します。

昨今、欧米からアルコール関連肝疾患(ARLD: alcohol-related liver disease)として、この病態が再定義される動きがあります。従来アルコール飲酒量を純エタノール換算で男性60g/日、女性40g/日以上で肝障害がみられた場合をアルコール性肝障害と考えてきましたが、男性30g/日、女性20g/日以上といった少ない量での肝障害でも、アルコール関連肝疾患として治療を開始していく動きがあります。また、従来の禁酒治療以外にも後述する節酒も治療として考慮すべきと考えられるようになり、今後日本での定着が注目されます。

注意が必要な量の飲酒を続けると最終的に肝硬変や肝がんに移行します。個人差はありますが日本酒に換算すると男性の場合1日5合以上を約20年以上続けている方、女性の場合はその3分の2の飲酒量を12年程度続けていると肝硬変に至るといわれています。肝硬変からの発がん率は10年で約10%と考えられており、大量飲酒で起きる病態、特に飲酒で発がんがみられることに留意する必要があります。

さらに、日本人の特徴として重要なのが約4割の方がアルコール代謝酵素の活性が失われており、少量の飲酒で赤くなるフラッシング反応が起こるという点です。こういったフラッシャーの方は、長年の飲酒習慣によって耐性が生じ、次第に赤くならなくなっていきます。フラッシャーの方はフラッシング反応が起きない方と比べて食道がんや口腔咽頭がんのリスクが高いため、大量飲酒はおすすめできません。

飲酒習慣をチェックしてみよう!飲酒習慣スクリーニングテスト「AUDIT/AUDIT-C」

コロナ禍での臨床現場では、アルコール患者さんは二極化しています。元々お酒をそこまで好まず付き合い酒をする方は、テレワークや行動制限により外での飲酒機会がなくなった結果、ご自宅での家族の厳しい生活管理のもと節酒・禁酒に成功する例が多くみられます。一方で、根っからのアルコール好きの方は、お昼から自宅で飲めることをいいことに肝炎や膵炎にまで至り、問題飲酒で入院が必要となる方がいらっしゃいます。こうした二極化現象が進み、後者の問題飲酒者の数に限ってみれば増加傾向にあります。実際にコロナ禍の影響で問題飲酒者が症状を悪化させるケースも多く、コロナ目と比較してアルコール性肝疾患による死亡者数が1割増加しています(厚生労働省 人口動態統計より)。

そもそも問題飲酒とは、AUDIT 8点以上のことを指します。AUDIT(The Alcohol Use Disorders Identification Test)とは、WHO(世界保健機関)がスポンサーとなり問題飲酒の方を早期発見・早期介入することを目的に作成された、世界中で使用されている「飲酒習慣スクリーニングテスト」です。

少しでもお酒を嗜む方は、この機会にご自身の飲酒機会を振り返り、現在の飲酒習慣が適切か、アルコール関連疾患や日常生活へ影響が出るような危険性を伴う飲酒習慣がないかAUDIT(しっかり10問コース)もしくはAUDIT-C(さくっと3問コース)でチェックしてみましょう!もっとも近い回答を選ぶだけで、飲酒習慣の重症度を判定することができます。

気になる禁酒・節酒指導の内容

いくらアルコール性肝炎や膵炎、もしくは早期食道がんを内視鏡的に治療したとしても、これらは枝葉の治療にすぎません。木の本幹である禁酒が達成されなければ、また悪い枝が伸びてくる訳です。禁酒こそが唯一の確実な治療法であり病態を可逆性に改善させます。禁酒は社会的背景の把握が不可欠で、ご家族やご友人、同僚の理解と協力が必要です。こういった生活環境の整備に加え、心因的な要素や精神的なサポートを必要とする場合も多くあります。内科医のみならず精神科医や心理療法士、ソーシャルワーカーなどの医療関係者にも協力を要請し、集学的な治療を行うことが重要です。

また一方で、少量の飲酒が疾患を誘発する報告はなく、むしろ健康に働くことが認められてきています。アルコール性肝疾患には至らない健常者には、適正飲酒量(日本酒換算1合/日、エタノールとして20g)による節酒指導を行っています。医療サイドから“禁酒を”提言することは簡単ですが、患者さんサイドから見ると一方的な禁酒指導がかえって通院の自己中断を生む可能性があります。そのため、節酒指導から禁酒につなげる方が介入の有効性が高いと考えられ始めています。

アルコールを嗜む方や飲酒問題を抱えている方はフィブロスキャン検査を!

こうした現状の中で、“沈黙の臓器”と呼ばれる肝臓を評価する際にフィブロスキャン検査は重要な検査となります。無意識のうちに飲酒量が増えているのと同じように、肝病変は知らないうちに肝炎から肝硬変、肝がん発生へと進んでいきます。採血での肝機能検査に加えてフィブロスキャン検査による肝臓評価を行うことで、肝臓の病態を正確に把握することができます。

小生はフィブロスキャン検査が本邦上陸時より20年以上同機器に携わっています。当クリニックでもフィブロスキャン検査を受診することが可能です。アルコールを嗜む方や飲酒問題を抱える方、飲酒習慣スクリーニングテスト「AUDIT」で8点以上の方、「AUDIT-C」で男性なら6点以上、女性なら4点以上の方は是非一度、フィブロスキャン検査による肝臓評価をおすすめします。

多くの人にとってお酒は、労働後の安らぎと解放感を与え、不安や悲しみを慰め、また豊作を喜び、神の捧げる感謝を託すものとして、現代も古代もお酒の役割は大きな変わりはないと思います。お酒と上手に付き合い楽しみながら、この貴重な文化的遺産を継承していきましょう。

 

 

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<コラム筆者>
菊池 真大 先生
日本アルコール・アディクション医学会理事
駒沢・風の診療所 消化器内科
東海大学医学部客員准教授
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