第1回:日本人はなぜNASH(非アルコール性脂肪肝炎)の早期発見が必要なのか

脂肪肝

「脂肪肝」という言葉を多くの方が一度は耳にしたことがあると思います。それでは「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」や「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」という疾患はご存じでしょうか?あまり馴染みがない病名かもしれませんが、これらは脂肪肝の大部分を占め、かつ重要な疾患です。

これまで脂肪肝は良性の疾患と考えられてきましたが、最近の研究で脂肪肝の中には肝硬変や肝がんに進行するタイプがあることが分かってきました。肝硬変や肝がんに進行する可能性のあるNAFLD・NASHとはいったいどんな病気なのでしょうか?これから2回にわたり、NAFLDやNASHなどの脂肪肝診断の重要性や、人工知能(AI)を用いた新しい予測・診断ツールについてご紹介していきます。

非アルコール性脂肪肝患者さんの1/3は非肥満

飲酒をほとんどしないのに大量飲酒者と同じような脂肪肝や脂肪肝炎を発症し、肝硬変や肝がんに進展する非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:ナッフルド)の患者さんが極めて多く存在しています。このような患者さんの多くが肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などのいわゆる生活習慣病を背景にしていますが、日本人のNAFLD患者さんの1/3は非肥満者と言われています。

PNPLA3 遺伝子の重要性

遺伝子には4種類の塩基(A:アデニン、 G:グアニン、 T:チミン、C:シトシン)があり、22番染色体近傍のPNPLA3遺伝子はCC型、CG型、GG型の3 タイプに分かれています。GG型は非アルコール性脂肪肝炎(NASH:ナッシュ)の発症もしくは進展に深く関連しており、日本人は欧米人よりもGG型の割合が高く1/4が有していると言われています。このように日本人はGG型を持つ割合が多いため、欧米人よりも太っていない非肥満のNAFLD/NASH患者が比較的多いと考えられています。

なぜ脂肪肝診断が重要なのか

NAFLD患者さんは我が国に2000万人以上おり、NAFLDには予後の良い脂肪肝(NAFL:ナッフル)と予後の悪い脂肪肝炎(NASH)があります。NAFLDの10~20%が肝硬変になりやすいNASHです。NAFLD/NASH患者さんは肝臓のみならず食道、胃、大腸、すい臓など、さまざまな臓器にがんが発生しやすく、NAFLD/NASHから糖尿病や高血圧を発症し、心血管障害や認知症など多くの病気を引き起こします。なお、NASHの予後を規定するのは肝臓の線維化のみと言われているため、線維化の程度(stage)を正しく診断することが重要です。

肝線維化の確定診断方法とは

肝線維化の確定診断は、肝臓に針を刺して組織を採取し組織学的に診断する肝生検で行います。肝線維化の程度はF0からF4(肝硬変)に分類され、F3やF4になると肝がんの発生リスクが高くなります。

非侵襲的診断法(NIT)の開発

肝生検には1泊2日の入院や、局所麻酔を実施した際に軽度の痛みが伴うこと、さらには病理診断のバラつきなど、やや問題があります。そこで世界中の研究者たちが、さまざまな血液検査を組み合わせた非侵襲的診断法を開発してきました。我々も肝線維化マーカーのⅣ型コラーゲン7sとヒアルロン酸の組み合わせたFM-fibro indexや、Ⅳ型コラーゲン7sとASTを組み合わせたCA-fibro indexを開発し、これらがNASH線維化を高精度に診断できることを報告してきました。

NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版)では、モダリティを利用可能な施設においては、NAFLD/NASH患者の肝線維化予測/診断において超音波エラストグラフィやMRE(MRエラストグラフィ)が有用であり、施行することを提案しています。

 

まとめ

NAFLDを発症する患者さんの多くが肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などのいわゆる生活習慣病を背景にしていますが、PNPLA3遺伝子GG型が影響した非肥満者の方も比較的多くいます。太っていない非肥満の自分には関係ないと思わず、まずは脂肪肝リスク予測ツールで入力された条件と同等の方が脂肪肝から肝炎に進展するリスクを確認してみませんか?

 

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<コラム筆者>
岡上 武 先生
大阪府済生会吹田病院名誉院長、京都府立医科大名誉教授、元日本肝臓学会理事、元日本消化器病学会理事、厚生労働省肝炎治療戦略会議メンバー、厚生労働省肝炎等克服緊急対策研究事業(肝炎分野班員)、厚生労働省NASH研究班元班長
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