第2回: 人工知能(AI)で脂肪肝を予測・診断する方法を開発したきっかけ

脂肪肝

第1回では、非肥満のNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)や脂肪肝診断の重要性についてご紹介しました。2回目の今回は、AIで脂肪肝を予測もしくはNASHを診断するためのツールとその開発秘話についてご紹介していきます。

予後不良のNASHを拾い上げることが重要

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:ナッフルド)の臨床で重要なことは、2000万人のNAFLDの中から予後不良な非アルコール性脂肪肝炎(NASH:ナッシュ)を安価で安全に効率よく拾い上げることです。そこで日常臨床で誰もが使用するデータを人工知能で処理し、肝臓専門医以外でも簡単に操作できる医師向けのAIシステム「NASH-Scope」を開発しました。

AI システムにたどり着いた理由

非侵襲的にNAFLD/NASHの鑑別やNASHの肝線維化を診断する方法(NIT)が数多く報告されています。特にFIB4 indexは、NASHなどの脂肪肝の方において肝線維化の進行度合いを評価するためのスクリーニング法として有名です。

我々が報告したFM-NASH indexやFM-fibro index、CA-NASH index、CA-fibro indexは、単純性脂肪肝(NAFL)やNASHの極めて優れたスクリーニングとNASH線維化の診断法です。しかし、肝臓専門医以外の方でも簡単かつ確実に、そして安価に診断する方法の開発が重要だと思い、日常臨床で使用する患者さんの身体所見や血液検査成績を用いたAIによる医師向けの診断システム「NASH-Scope」を開発しました。

脂肪肝やNASHを予測・診断するツールとは?!

今回開発した医師向けの診断システム「NASH-Scope」とは、NAFLとNASHの鑑別を行うAI診断システムのことで、病院だけでなく開業医や健診センターでの使用にも適しています。AIには大きく分けて「機械学習」と「深層学習(ディープラーニング)」の2種類があります。このシステムでは深層学習を行い、日常臨床で使用する患者さんの身体所見や血液検査成績を用いてデータの分析と学習を強力に仕上げています。また、診断結果が数字で表示されるため治療効果の判定にも有用ですが、医療機器の承認が必要なため汎用には少し時間がかかると思います。

肝臓検査.comでは、一般・患者さん向けに開発されたNASH-Scopeの機械学習版である「脂肪肝リスク予測ツール」を公開しています。

脂肪肝リスク予測ツールとは、済生会吹田病院にて行われた「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者及び非アルコール性脂肪肝炎(NASH)患者における肝線維化の進行度に関する研究」*1データより構築されたNAFLD/NASH予測モデルから、入力された条件と同等の方が脂肪肝から肝炎に進展するリスクを表示するツールです。

生年月日・性別・身長・体重・腹囲・血液検査のAST値・ALT値・γ-GTP値・総コレステロール・中性脂肪・血小板数の11項目を入力するとリスクを確認できますので、健診結果などの血液検査データをお持ちの方は、ぜひお試しください。

※ NASH-Scopeは、医師向けの診断システムです。
※ 脂肪肝リスク予測ツールは、一般・患者さん向けに公開された予測ツールです。入力された条件と同等の方が脂肪肝から肝炎に進展するリスクを表示するツールで、脂肪肝の有無を予測するものではありません。
※ また、アルコール性肝疾患・ウイルス性肝炎(B型肝炎・C型肝炎)・自己免疫性肝炎・原発性胆汁性胆管炎・薬害性肝障害・代謝性肝疾患(Wilson病やヘマクロマトーシス)の方を対象とした予測ツールでもありません。
*1: 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者及び非アルコール性脂肪肝炎(NASH)患者における肝線維化の進行度に関する研究
https://www.suita.saiseikai.or.jp/medical/research/explanatory_document8/

NASH-Scopeや脂肪肝リスク予測ツールの活用可能性

NASH-Scopeや脂肪肝リスク予測ツールの入力は1分以内で完了します。瞬時に画面上に結果が表示されるため、病院や開業医などでの外来診療に最適です。また近年NAFLD/NASHは、糖尿病や高血圧の原因になることがわかりました。肝臓はもとよりすい臓、食道、胃、大腸や前立腺など、さまざまな臓器の発がんリスクになることも判明しているため、健診センターにおいてメタボ健診と併用することが極めて有用だと考えています。

さらなるAIシステム(Fibro-Scope)の開発を目指して

NASHの臨床で極めて重要なことは、NASH患者さんの肝線維化の程度(fibrosis stage)を正しく診断することです。なぜなら、NASH患者さんの予後を規定する肝線維化の程度(stage)が重要だからです。

さらなるAIシステムの開発を目指して、医療従事者向けのFibro-Scope の開発に取り組んでいます。Fibro-Scopeは、NASH-ScopeでNASHと診断された患者さんに線維化マーカーのⅣ型コラーゲン7sの項目を加えて入力すると、高い精度で肝線維化の程度を診断できるようになっており、間もなく使用可能になります。

さらに、NAFLD/NASH診療ガイドライン2020でも有用とされているVCTE(フィブロスキャン検査の肝硬度測定)の測定値を上記12項目に加えると、より正確に線維化の程度(stage)を診断し、脂肪肝の程度も判明できます(Fibro-Scope combined VCTE)。これは病理診断を代替するよりも、病理診断の問題点(sampling error, interobserver’s difference)の解決に繋がると考えています。Fibro-ScopeやFibro-Scope combined VCTEは医療機器の承認が必要なため、汎用には少し時間がかかると思います。

まとめ

脂肪肝には予後の良い脂肪肝(NAFL)と予後の悪い脂肪肝炎(NASH)があります。肝臓検査.comでは、入力された条件と同等の方が脂肪肝から肝炎に進展するリスクを表示する「脂肪肝リスク予測ツール」を公開していますので、ぜひこの機会に確認することをおすすめします。

 

脂肪肝から肝炎に進展するリスクをチェックしてみよう!

 

 

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<コラム筆者>
岡上 武 先生
大阪府済生会吹田病院名誉院長、京都府立医科大名誉教授、元日本肝臓学会理事、元日本消化器病学会理事、厚生労働省肝炎治療戦略会議メンバー、厚生労働省肝炎等克服緊急対策研究事業(肝炎分野班員)、厚生労働省NASH研究班元班長
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